「看護学生よ、大海に出よう」看護師カメラマンが語る自分らしい看護の道【イベントレポート】
驚きのデータがあります。「Nurse Career Pallets」が今年の8月、4年制大学の看護学生約260名を対象にアンケート調査を行った結果、主に1年生から3年生の2人に1人が将来的なキャリアのイメージができていないと回答。また、キャリアを考える機会が十分にあると答えた人の約86%が大学の授業と答えました。つまり、4年制大学の看護学生のほとんどが自分が納得したキャリアの選択肢が見つかっておらず、また見つける場所のほとんどが大学の授業という限られた場でしかないという問題が浮かび上がってきました。看護学生だから看護師になるのではなく、看護師資格を持つ私たちだからこそ選択できる看護の道を歩んでほしい。そのような思いを持つ看護学生の有志が集まり、看護学生のための「キャリアイベントサイト「NurseCareerPallets」を立ち上げました。
第1回目のイベントでは、現在看護師カメラマンとして活躍されているyumi(@ym_cheesecake)さんによる講演会を開催。yumiさんは学生時代、「私は看護師に向いていないかもしれない」という壁にぶつかったことをきっかけに、企業インターンやイベントの企画運営など看護以外の世界に飛び出し、病院にて写真展「アスリートの笑顔展」を開催するなど、「カメラマン」という自分の好きなことを活かして活躍されています。看護師カメラマンとして歩んでいるyumiさんに狭い世界から飛び出して自分らしい選択をすることの魅力について語っていただきました。(文章:小﨑詩奈)
目次
「医の中の蛙、大海に出る」
yumiさんの経歴を見て、「yumiさんがきっと特別なんだろう。」「私にはできないだろう。」と思う人もいるかもしれません。しかし、冒頭で触れたとおり、yumiさんも大多数の看護学生と同様に自分のキャリアに悩む一人の看護学生でした。
「大学2年生の頃、他学科の人と関わったり、実際に病院実習に行ってみたりする中で 『私は看護師に向いていないかもしれない』と悩むことがありました。ちょうど病院実習が始まったばかりのときです。
このモヤモヤを解決するため、実際に医療以外の世界をもっと知りたいと思いました。医療以外にはどんな世界があるのか、自分は本当に看護に向いていないのか、どういうことなら「自分に合っている」と思えるのか、を知るために行動を始めました。」
yumiさんは、私たちが今将来に抱えているようなモヤモヤを解決するために行動を始め、その行動の名前を「医の中の蛙、大海に出る」と名付けられました。 見識が狭いことを表現した「井の中の蛙大海を知らず」という言葉がありますが、まさに看護学生や医学生は「医」の中で、病院で看護師・医師になることを中心に教えられます。そうした私たち「医の中の蛙」が外の世界に目を向ける活動のことです。
夢は職業じゃなくていい
yumiさんは、この活動を看護学部の4年間で最も大変だとされている大学3年生から始めました。実習をしながら、医療系企業インターンや医療系ではない異業種のインターン、学生団体でのイベント運営など様々なことに挑戦したyumiさんは、以下のように語ります。
「(活動を通して)いろいろな大人を見ていると、キラキラしている大人や、夢や目標に向かって自分らしく生き生きと働いている人たちはカッコイイなと思いました。
そうした中で、『夢=職業』でなくてもよいということに気がついたのです。
私は、昔から『将来の夢は何ですか』と聞かれたら迷わず『看護師です』と答えていました。ですが、行動してみる中で看護師という職業は、例えば人を笑顔にする手段の一つだったり、困っている人を助ける手段の一つだったりして、決して看護師になるということがゴールではないと思うようになりました。
自分の夢を見つめなおし、『私は将来どう在りたいのか、どう生きていきたいのか』ということを考えるようにしました。
考え抜いた結果、今の私の夢は半径1.5mの人の笑顔を守ることです。」
腕の長さは約75cm。自分の腕と相手の腕の長さを足すと「半径1.5m」となります。両手を広げつながっている人とできる円の範囲にいる人、つまり自分の目の前の人の笑顔を守ることがyumiさんの夢だと語っていただきました。
私自身、看護学生は看護師にならなければと思い、自分の気持ちとの齟齬をなんとなく感じていました。夢とは職業じゃなくていいという言葉は、自分らしいキャリアを歩むことに重要な考え方です。
yumiさんは、「私は看護師に向いていないかもしれない」と悩んでいましたが、「半径1.5mの範囲の人を幸せにする」という自分の夢を明確にした結果、その夢を叶えるための手段として看護師になることを選択されました。
職業を基準とするのではなく、自分がどうありたいのかということを基準にして職業を考えることで、職業選択への後悔が生まれることなく「自分らしく生き生きと」働くことができるというのは、将来の進路に悩む看護学生にぜひ知ってほしいと考えます。
夢に向かい「バイタルを撮る」
yumiさんは学生時代、カメラマンとしても活動し、病院で「アスリートの笑顔展」を開催されました。看護とカメラマン、どのようなつながりがあるのでしょうか。
「半径1.5メートルの人の笑顔を守りたいと思った時に、私にできることは看護と写真だと感じました。
私は看護の学生だし写真も大好きなので、それを組み合わせて目の前の人の笑顔のきっかけになりたいと思うようになりました。それで看護学生カメラマンと当時は名乗っていたんです。
ーー看護でよく言う「人に寄り添う」とか「個別性を考える」という考え方は大きく写真にも生かせる考え方で、ーー私は特に看護で培った人への寄り添い方やコミュニケーション能力などを生かして、人の写真を撮りたいと考えていました。
例えばバイタルサインという、その人が今どういう状況なのかわかる大切な生命兆候の指標を表す言葉から、「バイタルを撮る」という言葉を使っていて。私にとっての写真はバイタルサインと同じように、今目の前にいる人がどういう状況なのかどういう思いなのか、その思いをぎゅっとして形にしたものなんです。そのような写真をテーマに残したいと思って撮影を続けています。 」
yumiさんの写真は、看護師だからこそ撮影できる、見た人を笑顔にする写真。
yumiさんは、「目の前の人の笑顔のきっかけにする」という夢に向かって、被写体の生き生きとした表情を映し出す看護師カメラマンとして夢に向かって歩んでいます。
看護学生の時に学んできたことを、看護師だけではなく他のことにも活かすことができるというyumiさんのメッセージは、私たちに広い世界を見ることの魅力を感じさせます。
看護と自分の好きなことを掛け合わせて、自分らしい看護の道を歩む、そうした人たちの存在を私たちはあまり知りません。
yumiさんも「自分が看護師に向いているのだろうかと思った原因の一つに、看護師として病院で働く以外の道を知らずに狭い世界に留まっていたからということがありますね。」と語っていました。
yumiさんはそのような現状に対し、独自のキャリアを歩む看護師について看護学生に知ってもらうため「医路とりどり」というメディアを開設しました。
「そのような一風変わった働き方を推進してるわけではなくて、色んな道があることを知ってもらい、みんなが自分の好きな道を歩めたらいいなと思っています。」
yumiさんは決して私たちに変わった道を選択しなさいと言っているわけではなく、私たちが自分らしくあるための道を進むよう背中を押してくれているのです。
看護学生よ、大海に出よう。全ての経験はつながってくる。
このイベントを通し、「看護学生の可能性は無限大である。」と言っていただけたような気がします。私たちは自分の可能性を知るために大海に出なければいけません。それは決して簡単なことではありませんが、yumiさんは困難だとしても外の世界に飛び込む意義を教えてくださいました。
「いろんな世界を知ると、自分の好きな事嫌いな事が分かってきました。そして、好きを行動に移す際のワクワクする時間が増えました。なので、「実習だから〜」でやりたいことを全部諦めるのは勿体無いかもしれません。「若くていいね!」と言われるような時期を「辛かった」だけで終わらせない工夫をしてみてください。あなたらしく生き生きとできる時間を過ごして欲しいなと思っています。
ーー私が大学4年生の時に国家試験と写真展の準備が重なった時は、何で(看護以外の)やらなくてもよいことまでしてきたのだろうとネガティブに思ってしまったこともありましたが、振り返ってみるとやはりやってよかったと思います。
なぜかというと、後悔がない。納得した進路を選べているという実感があるからです。
私は4月から看護師として働いていて、『辛いな』と思うこともたくさんあるのですが、一方で学生のうちに色んな行動をした上で看護師を選んだという納得感があるので、決して看護師になったこと自体に後悔をすることはありません。」
大海に出ることは、自分らしい進路を選ぶために重要なこと。そして、自分たちの選択に後悔しないための手段でもあることが分かりました。自分らしくキラキラして生きていくために、色々な世界を学生のうちに経験したいと改めて感じます。
yumiさんは、色々な経験をすることに関して以下のようにも語られています。
「ーー『Connecting the dots』というのはスティーブ・ジョブズさんの言葉なんですが、ーー一見関係のないような経験も、結果的に後から点が線につながる、いろんな経験は必ずつながってくるんだなという実感があります。」
どんな経験も無駄にはならず、私たちのキャリアを形成していく種となっていく。
外の世界に目を向けることは私たちにとってかけがえのない学びにつながるということをyumiさんから教えられました。
看護学生の皆さん、ずっと医療の世界だけにとどまらず、yumiさんのように一歩踏み出して外の世界に目を向けてみませんか。
その先に、私たちだからこそできる新しい看護の道が広がっています。
登壇者プロフィール
Yumi Sudo
看護師カメラマン。バイタルを撮る人。学生時代、イベント企画運営や企業インターン等を経験。また、「看護学生カメラマン」として出張撮影サービスLovegraphや、筑波大学アスレチックデパートメント等でカメラマンを務める。2020年1月〜筑波大学附属病院にて「アスリートの笑顔展」を開催中。2020年3月〜看護師の働き方を紹介するWebメディア「医路とりどり」を立ち上げ、運営中。
看護×写真で笑顔のきっかけになるのが目標の一つ。
サツマイモとチーズケーキが好き。
医路とりどりURL:https://irotoridori.me/
イベントサイト「Nurse Career Pallets」
キャリアを考える機会がなく、また限られた範囲でしか進路を考えることができない看護学生が、より広い視野を持ち「看護学生だから看護師になる」のではなく看護学生の「私」としてのキャリアを選択する機会を提供したいという想いで、2020年10月にメドキャリ看護メンバー4人によって開設。
看護学生の持つ進路を描くパレットに、看護師としての選択肢という絵の具を増やし、自分だけのナースキャリアを描くために、多様な働き方をする看護師を招いてイベントを開催。また自己分析イベントを提供している。
LINEオープンチャットも運営。オープンチャットでは、イベントの最新情報や本メディア「メドスタ」の取材要員募集、メンバー限定の自己分析イベントの開催、またイベントの希望募集などメンバーがよりキャリアについて考えられるコンテンツを提供していく。
オープンチャットには以下のURLから参加可能。
イベントサイトURL:https://nursecareerpallets.wixsite.com/nursecareerpallets
LINEオープンチャットURL:https://line.me/ti/g2/rUmCSYpPbE_Zjm-Wd6vLFg?utm_source=invitation&utm_medium=link_copy&utm_campaign=default
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