医学生が医学生のために選ぶ、あたらしい気づきが得られる本6選(後編)
前編では、東京医科歯科大学医学部5年の中原さんに「人間失格(太宰治)」「理性の限界(高橋昌一郎)」「寝ながら学べる構造主義(内田樹)」の3冊を紹介いただきました。
本日は、順天堂大学医学部5年の吉富さんにおすすめの3冊を教えていただきたいと思います。
—前回は、中原さんより「人間失格(太宰治)」「理性の限界(高橋昌一郎)」「寝ながら学べる構造主義(内田樹)」の3冊を紹介いただきました。吉富さんはどんな本を紹介してくださいますか?
私のおすすめは、「星の王子さま(サン=テグジュペリ)」「論語と算盤(渋沢栄一)」「考える技術・書く技術(バーバラ・ミント)」です。
星の王子さま(サン=テグジュペリ著・池澤夏樹新訳)
星の王子さまを初めて読んだのは、反抗期真っ只中の中学生の時でした。読んだときぼろ泣きしてしまい、事あるごとに読み直しています。
著者のサン=テグジュペリは前書きで、「この本を一人の大人に捧げることを許して欲しい」と書いているんです。
その言葉通り、「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」という有名なセリフは、大人になった今でも折に触れて役に立っていますね。
大学生がファンタジー読む機会も滅多にないですし、ファンタジーだけど人間社会にも共通する事がたくさん書かれていて、読むと心が綺麗になります。
簡単な言葉と表現、ストーリー構成で書いてくれているので、寝る前に読むと童心にかえってよく眠れますし、ストレス溜まっている時にぴったりです。
—著者のサン=テグジュペリは操縦士で、サハラ砂漠に不時着した実体験が作品にも反映されているそうですね。大切なものは何か思い出したい時、ぜひ読んでみようと思います。
考える技術・書く技術(バーバラ・ミント著・山﨑康司訳)
自分と同じ考えをする人は一人としていないですよね。なので他の人とのコミュニケーションの際、齟齬が起きないような伝え方をしたいと悩んでいた時、社会人の方から勧めていただいたのがこの本です。
問題解決力を伸ばすピラミッド原則、という副題の通り、ピラミッドの原則で考え伝えることで、自分が思う優先順位通りに相手が理解してくれ、同時に問題解決もしやすくなるというものです。
まず和訳ということもあり、集中して読まないと眠くなる本ではあります(笑)。ですが巷に出ているあらゆるHOWTO本の根本がここにあると感じたので、時間と体力がある時にぜひ読んでみてほしいです。
私が得た結論は、結論から話すべきだということでした。
ピラミッドの頂点には結論があり、下にいくにつれて結論をサポートする3つの理由や、その理由を支持する背景があるというものです。他にも色々な考え方や書き方が説明されているので、結論ファースト以外の内容が知りたい方はぜひ読んでみてください。
—ピラミッドの原則に当てはめて考えると、相手にわかりやすい伝え方が実践できそうですね。結論ファーストのようなトップダウン型のアプローチの他にも、ボトムアップ型のアプローチも本書では紹介されているようなので、ぜひ読んでみたいと思います。
現代語訳 論語と算盤(渋沢栄一著・守屋淳現代語訳)
言わずと知れた、次の1万円札に載る渋沢栄一氏の本です。
「論語」は道徳や規範など人間としてどう修身していくかという内容です。一方「算盤」は、数を計算するという、商いや商業の象徴のようなものですよね。なので論語と商売は両立しないと考える人も多いのですが、両者を一緒に考えてこそ商業は発達するという趣旨です。私が特に学びを得た第1章から第3章について紹介します。
第1章 処世と信条
ものごとを見る、ということには「視、観、察」という3つの段階があると説かれています。視とは物理的に捉えること、観とは出来事の理由を考えること、察とは根本に立ち返り理由を深く洞察することを指します。
例えば言い争っている二人の人がいた場合、「視=言い争っている人がいる」「観=言い争っている理由はこうだろうか」「察=人間の本質はこうだから、この人たちは言い争っている」という具合に考えていくというものです。社会に出て生きていく身として、深い観察眼を身につけよ、といいます。
また「カニ穴主義」というのも印象的でした。カニは目の前の穴が自分の体格で入れるか判断し、自分の体格より狭い穴には入らないという性質があるそうです。しかし人間は自分の実力以上のことに手を出し、自分を大きく見せがちだと。なので、自然界の動物に見習って身の丈にあった生き方をせよ、ということです。
第2章 立志と学問
真の立志は、40歳を過ぎてからでも遅くないというのがこの章の趣旨です。今の教育制度では、22歳で大学を卒業してすぐに生業を決める制度になっていますが、本来ならそのような若い時期に、人生を捧げる生業を決めるのは難しいということです。若者は焦らず、社会に揉まれる中で自分の向き不向きを知り、そこから立志しようということです。
第3章 常識と習慣
良きリーダーになるためには、「智・情・意」の3つを兼ね備えた人間になるべきというのが趣旨です。例えば「海賊王に、俺はなる!」と意志があっても、知恵を働かせてステップを考えなければ成功できなませんよね。また、知恵と意志に加えて情愛を備えていないと、本当の意味でのトップには立てないといいます。この3つを備えた人が「完き人(まったきひと)」で、1つでも欠けていると「偉き人」止まりだそうです。
将来は殺伐とした医療現場ではなく、情愛をもって良い現場をつくっていきたいと思いましたし、身の丈にあった生き方も大切だなと痛感しましたね。
方向性に迷った時の立ち返る場所のような存在です。
—寝る前に読めるような心温まる本から、非常に学びが深い本まで、様々なレパートリーの読書をしているんですね。みなさんも、気になる本があればぜひ購入して、勉強の休み時間に読んでみてください。
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