「嘆いてる暇があったら行動に移せ」アメリカ在住ドクターが語る、エネルギッシュな生き方〜前編〜

海外

30歳から英語を勉強し、USMLE・米国内科専門医を取得された山田悠史先生。アメリカでの診療だけでなく、NPO団体設立・メディア出演・記事執筆などマルチに活躍されています。穏やかな雰囲気に隠された、アクティブでエネルギッシュな山田先生の生き方や信念を伺いました。

山田悠史氏 プロフィール

2008年:慶應義塾大学医学部卒業
2009年〜:日本で初期・後期研修医を修了後、総合診療医として勤務
2015年:内科研修医として渡米
2018年:NPO団体「APSARA」設立
2020年〜:ニューヨークのマウントサイナイ医科大学にて老年医学・緩和医療科に所属
2021年:新型コロナワクチン の不安に寄り添う「コロワくんサポーターズ」設立、LINEチャットボット「コロワくんの相談室」開設
(写真左下:「コロワくん」、右下:校正風景)


 

 

 

 

学生時代は英語が苦手だったが、30歳から英語を勉強しUSMLEなど様々な資格を取得。
診療以外に、新型コロナワクチン の不安に寄り添う「コロワくんサポーターズ」、NPO団体「APSARA」、医療系学生の英語学習・留学などをサポートする「メディカルイングリッシュハブ」の主に3つの活動でも活躍されている。

1.老年医学・緩和医療について

・なぜ老年医学・緩和医療科を選ばれたのでしょうか?

ー日本の一般的な病院で働いていると、患者さんの多くは80歳や90歳といった高齢者なのですね。しかし医療者はどうしてもまずは「標準的な治療を」と考え、50歳や60歳の患者さんと同じように治療しようとしてしまいます。やはり歳を重ねていくと、例えば体の機能が違ってきたり、あと何年生きるかということを逆算して考えなければならず、高齢者特有の問題をふまえた上で医療を提供する難しさに多く直面します。そこで高齢者医療の特殊性を一度体系的に学んで、そうしたニーズに応えられる医師になろうと決意してアメリカに来ました。日本にも老年医学があるのですがあまり浸透・普及はしていません。一方、私の所属するニューヨークのマウントサイナイ病院には合計100名を超える指導医のいる非常に大きな老年医学科があり、これは行くしかない!と思い渡米しました。

・高齢者に対する医療の特殊性とは具体的にどういったものがあるのでしょうか?

ー例えば抗がん剤の使い方です。50歳の患者さんでは、がんが見つかったらほとんど迷いなく抗がん剤治療などの治療を始めると思います。しかし85歳の患者さんではすぐに抗がん剤を始めましょうとはならないと思うのです。あるいはもっと身近な糖尿病や高血圧のような病気でも、50歳の患者さんではこの先数十年先を考えて薬を使いますが、90歳の患者さんでは例えばあと1年しか生きられない中でその薬が本当に必要なのかということになります。にも関わらず、高齢者診療の現場で、ほとんど医師の自己満足で、検査値が異常だから薬を投与するという状況になっていないかと思い悩みはじめたのですね。そういう視点はもしかすると多くの医療者に欠けてしまっているかもしれません。医師は新たに薬を処方するような足し算は得意ですが、すでに飲んでいる薬を中止するという引き算は苦手だったりするのです。そのようにして実際に90歳の患者さんが10種類以上の薬を飲んでいるということも珍しくなく、その人にとって最適な医療が必ずしも提供されていないという現状があったりします。「残りの人生は痛みなく家族と自宅で過ごしたい」など、患者さんの生きがい、希望に寄り添った医療を提供することが老年医学の大きな役割の一つです。

2.現在の活動について

・イングリッシュハブについて興味があります!どういった活動なのでしょうか?

ーイングリッシュハブはAPSARAの活動が原点になります。APSARAは2018年に立ち上げた団体で、カンボジアを中心とした医学生や医師に教育の場を提供しています。カンボジアでは1980年代にクメール・ルージュ という大虐殺が起こり、60、70歳の医師がいない、すなわち教育を提供する立場の人が不足する状況が続いています。日本の医学生は驚くと思うのですが、カンボジアの医学部には医学を教える先生が足りないのでGoogleなどのインターネットサーチで中国の違法ウェブサイトなどを使って学んでいたりするのを目にしました。そのような背景もあり、カンボジアの医療は国民にあまり信用されておらず、お金のあるカンボジア国民は国外で医療を受けているのです。私自身の信念として、「どうしてこうなってしまうのかという嘆きや不満が生まれたとき、嘆いている暇があったら行動を起こせ」「ピンチはチャンス」という信念があり、これは自分たちがなにかできる場所だと感じたため、APSARAを友人らと立ち上げました。

設立の年に開いた1回目の学会ではカンボジア人が200人も参加してくれ、会が終わった後も質問の大行列ができました。自分たちの活動がこんなにも多くの人に必要とされているのかと感じ、それ以降継続してレクチャーを続けています。2020年からはオンラインレクチャーに切り替わり、東南アジアの他の国の医師も参加できる環境になりました。

このようにして学会のニーズが高まり、人手が足りなくなる中、日本の知り合いの医師たちも講師をやりたいと声はかけてくれるものの、最終的に「英語が話せない」「講義はできても質疑応答はできない」となってしまうことに気がつきました。日本人は恵まれたことに、日本語の教科書があるため英語を学ばず、自国の言語だけで医療を学べてしまいます。なので、英語はあまり定着しないのです。東南アジアの医師がこれだけ私たちの教育を必要としてくれ、その上日本にはそれに応えるだけのリソースがあるにも関わらず、言語の壁一つでそれが出来ない、という悔しい状況を少しでも変えたいと思いました。そして、ここでも「嘆いている暇があったら動け」の信念で、学生のうちから英語を学べるプラットフォームを作ろうと考え、英会話のプロと協力してイングリッシュハブを立ち上げました。

・APSARAの学会と日本の学会の違いはありますでしょうか?

ーAPSARAの学会ではとにかく質問が途絶えないところですね。しかも参加者たちが学会で学んだことをSNSでシェアしているんです。日本では講演後に質問が出ないケースも多く、空気を読んで2、3個質問してくれるぐらいなのに、カンボジアではみんなが手を挙げてずっと質問が続く。「僕はこの前こういった患者さんを見たんだけど、あなたはどう思う?」など疑問をどんどんぶつけてくれるのです。これだけ自分が人の役に立てて、人に必要とされるという経験はカンボジアが初めてでした。カンボジアに行って彼らに出会ったからこそ見えた景色で、これこそがAPSARAが私に与えてくれた贈り物だと思っています。なにかまだ自分が見たことのない景色を見てみたい!という欲求が常に自分の中にあって、その欲求を満たしてくれる経験でもありました。

 

後編では、英語の勉強法・世界一周旅行・マルチに活躍できる秘訣などを盛り込んで掲載します!!

ピックアップ記事

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。