悩める看護学生へ!看護師で作家の宮子あずさ先生が語る「看護の魅力」

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「課題や試験勉強をこなすことで忙しく、『看護』と向き合う時間がなかなかない…。」看護学を学んでいても看護の魅力を改めて考える機会は意外とないですよね。また、看護を学んでいると自分にとっての看護の魅力を改めて考え、キャリアに活かしたい!という看護学生方も多いのではないでしょうか。

そんな看護学生の皆さんと、イベントを通して看護師の魅力をもっと知りたい!わくわくしたい!という思いから、イベントサイト「Nurse Career Pallets」 は、30年以上の臨床経験から『看護婦だからできること』や『看護師という生き方』などの著書を出版され執筆の場で看護師として働く魅力を発信されている宮子あずさ先生をお呼びし、看護学生向けイベント「今だからこそ!もう一度考えよう『臨床看護の魅力とは』」を7/18(日)に開催いたしました。

イベントの内容から、宮子先生だからこそ語ることのできる看護の魅力と奥深さについてお届けします。

(文章:藤井実穂子)

宮子先生にとっての看護の魅力

看護師は患者の「健康的な所」と付き合える

看護師として34年の経験を持つ宮子先生は、ご自身の体験から、「就職してすぐにこれが(看護師の)魅力だとわかったこともあれば、当時は少し辛かったのだけど、後から振り返るとあの経験があったから今の自分がいるのだなという風に思えるようなこともあったんですよね」と振り返ります。

新卒で勤務したのは患者さんの重症度がさまざまの内科病棟。進行がんの患者さんが多く、はじめのうちは「患者さん自身がもう厳しい状況だと知っている人は病気のことで頭がいっぱいで不安である」というイメージから、何を話せばよいかもわからなかったと宮子先生は話します。しかし実際には、その日の献立や天気で一喜一憂する姿が見られたり、日常会話が弾んだりする。
そんな場面と出会う中で先生が気付いたことは、疾患の理解は必要な一方で、その人の全てが病気なわけではない。だから、健康なところと付き合うことを大切にするべきだと語っていただきました。

患者さんの日常と関わり、病気抜きにつきあう瞬間が看護にはある。それによって患者さんの活力が引き出される場合があるのです

看護は「病(患者) 対 人間(看護師)」ではなく「人間(患者) 対 人間(看護師)」のつながりの場であり、そこに面白さがあり新たな発見がある。そのようなところが看護師の魅力の一つであるのかもしれないと気づくことができました。

 日常生活援助は看護の強み

内科病棟のみならず緩和病棟での勤務経験も持つ宮子先生。助からない状態だとわかって入院してきた患者さんの多くが最初に望むことは入浴でした。

なぜ緩和ケア病棟でまずお風呂なのか、先生はこう分析します。

「技術としてのお風呂でのケアは治療している病棟でもできますが、意外なことに患者さんがその気にならない。なぜかというと、治療している段階では治療が優先で、『体に(よくない)影響がありそうなことは一切したくない』という気持ちが患者さんにはある。(お風呂に入らなければ)汗をかき、髪もベタベタになりますが、それでも助かるための治療がしたい。いよいよ治療ができなくなって緩和ケア病棟にきた時に、はじめて『綺麗にしてほしい』とか『日常生活を快適にしたい』という気持ちに切り替わっていく。だから大事なものが変わる瞬間なんですよね。」

看護師にとって大切なことの一つに、患者さんのその時の一番大事にしたいものを尊重することがあると思います。清潔行為をはじめとする日常援助は、その人の希望を叶えることや尊厳を守ることになり、患者さん本人にとっても見守る人にとっても大切ににされている証になるのだと先生は語ります。

「もちろん精神的な看護というものは大事ですが、患者さんのそばにいるだけでなく、患者さんが日常生活が快適に過ごせるように具体的な支援をするということが、精神的な面を支えることにもなるということ。私たちが日常的な援助ができるというのは私たちの強みだと思うのです。これが日常生活援助を通した精神的支援であり、私たち看護の力なんじゃないかと思います。」

人間を対象とする看護だからこそ、患者さんという名の相手の思いを大切にしなければならない。確かに看護技術自体は練習することで出来るものかもしれません。しかし、患者さんの身体状況、大事にしたいもの、家族の思い、様々なものに目を向けた上で、根拠に基づいた行為を行えるのが看護の強みであり、基礎看護学として看護技術を学ぶ意味はここにあるのではないでしょうか。

宮子先生が語る看護の奥深さ

辛い体験も振り返ると価値のある経験に

宮子先生が新人看護師だった頃、患者さんの誰からどのようにケアを行うかという順序に悩んだ経験があるというお話がありました。その時には先生自身が新人で技量がないことが原因だと考えていましたが、時を経て経験を積む中で、技量の問題ではなく継続して考えていく必要のある問題だと気づかされたと言います。

命には関わらないけれど孤立してしまう病気、余命は短くても家族などの支援体制が手厚い人など様々な場面に出会い、命の長さや可哀想という思いで順序を判断するという考え方は間違っているというのが今の先生の考えです。

人それぞれに苦痛があって序列はつけられないと思っています。

 今の宮子先生なら苦痛をデータや検査結果で見て患者同士の優先順位を判断することなく、個人の苦しみに寄り添ったケアを行いたいと語ります。

看護師として働く中で悩んだ思い出も、振り返ると人生に活きる大事なことに気付かせてくれる価値ある経験となる。そのようなことも看護師ならではの魅力だと感じました。

イベントの様子。1段目左から3番目が宮子先生。

看護は長く続けることで味が出る仕事 

患者さんの優先度に困ったり、提供した看護に満足してもらえなかったりして難しさを感じたという経験談は、看護学生の不安に拍車をかけてしまうのかもしれません。しかしそのようなケースが存在することもまた事実です。

辛くなった時の経験から学ぶことでいろんな改善案が見えてくる、そんな看護生活は34年も振り返ればあっという間だったと宮子先生は話します。

「10年働くと(看護の良さが)わかってくる。けれど10年ずっと辛いわけではなくて、『ケアをすることはこんなにいいことなんだ』と感じることもある。自分の中でちょっと辛かったことや色々経験から学ぶことで『あれはこうすればよかったんだ』とか『こういう意味があったんだ』という風に分かってくるのです。」

看護師としての仕事は、自分のなかでの振り返り・成長を繰り返し、続けていくことで新たな気付きや学びの場になる。

長く臨床の場を知る宮子先生だからこそ語ることができるお話だと感じました。

看護は人生にもつながる仕事

看護という行為はただ目の前にいる患者さんに技術を提供するだけでなく、実践の過程において自分自身の考えや価値観、人生そのものを反映させていると先生は考えています。

看護っていうプロセスは本当に自分の中に残っていく。そしてまた次の看護に活かすことができる。

看護を通しての学びは、職業とする看護師としてはもちろん、自分の人生そのものを豊かにしてくれる。看護師としてだけでなく、一人の人間として自分自身を成長させてくれること。看護と人生は切っても切れない関係と言えるのかもしれません。

最後に

命と向き合う臨床の場で看護師として働くなかで、辛いことも壁にぶつかることもたくさんあると思います。しかし、その経験は必ず自分自身の成長につながり、自分の視野を広げ、その後の看護の質の向上にも、自分の人生にも活きることを宮子先生から教えていただきました。

また、情報社会のこの世の中では看護師に対するネガティブな情報も多く、情報収集を試みた際にそれらが目に入ってくるのも事実です。ですが今回のイベントを通して考えてみると、それは一部の人の一部の意見に過ぎず、少し視点を変えてみれば看護の魅力は自分が思うよりも身近にたくさんあると感じました。

「看護の道を選び、その魅力を知っているし憧れもある。しかし憧れだけではやっていけないのではないか、憧れの看護師に私はなれるのか。」

看護学生の皆さんは色々なことに悩むかもしれません。そんな感情の揺らぎも看護ならではの味であり、振り返ってしみじみと噛みしめながらゆっくり成長していけばいい。

こうして看護の魅力とは何かを考えることも看護師としての成長のスタートラインであり、自分の人生のひとつの歩みにつながっているようにイベントを通して考えています。

残りの学生生活や看護師としての道を歩みはじめ、迷ったり悩んだりした時には、ふと立ち止まって深呼吸をして、宮子先生の話を思い出してみませんか。

登壇者プロフィール

宮子あずさ先生


1963年生まれ。大学を中退し看護専門学校に入学。1987年から看護師。東京厚生年金病院(現JCHO東京新宿メディカルセンター)に22年間勤務し、内科、精神科、緩和ケアなどを経験。看護師長も7年務めた。2009年から精神科病院で訪問看護に従事。また、1993年より大学通信教育で学び、短大1校、大学2校、大学院1校を卒業。2013年東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。博士(看護学)。勤務の傍らライターとしてコラムなどを執筆。
主な著書は『「負けるが勝ち」の看護と人生』(日本看護協会出版会)、『看護師という生き方』(ちくまプリマ―新書)、『看護婦だからできること』(集英社文庫)他多数。

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