「今だからこそ医療に投資を」世界を知るイノベーションプロバイダーが語る、コロナショックを乗り越える術
株式会社モリワカ専務取締役兼CIO、株式会社シリコンバレーベンチャーズ代表取締役社長兼CEO、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、Startup GRIND TOKYO Co-chapter Director、Statupbootcamp Scale Osaka メンターなど数多くの肩書きを持つ森若幸次郎氏。
シリコンバレーを始め、世界中の様々なスタートアップ企業のメンター、また、都内のクリニックの顧問も務めておられます。講演家として日本全国での著名ITや製薬企業、病院、銀行、大学などや、世界最難関のインド工科大学ムンバイ校にて、アントレプレナーシップとイノベーションについての特別講演、さらに都内の大学病院にて医師向けのリーダーシップや、ヘルスケアイノベーションの講演やワークショップを行ったり、Forbes Japan、りそな銀行、日刊工業新聞のコラムニストとしてもご活躍されています。
シドニー大学での大学生活やハーバード大学でのリーダーシッププログラムなど世界を飛び回りつつ、「世界をより良くするにはどうすれば良いか」長年考えてきた彼がたどり着いた答えは、「Innovations for a healthier life(世界中の人々のより健やかな人生のためにイノベーションを起こす)」というビジョンでした。コロナショックが渦巻く中、地方は、日本は、世界はどのように変わる必要があるのか、そして私たち一人一人ができることとは何なのか、オンライン取材にて伺いました。
聞き手:中山碩人(筑波大学医学類)、吉富櫻嘉(順天堂大学医学部)、渡邊大晟(国際医療福祉大学医学部) 文章:伊藤春花
目次
「幸せとは何か」悩みあぐねた学生時代
ー「Innovations for a healthier life」というビジョンにたどり着いた背景には、どのような出来事があったのでしょうか。
森若氏:まずは19歳から7年半、単身でオーストラリアに住みました。過去の自分は日本人的なエリートではなく、絵画やボクシングに没頭し、机の上で勉強する意味を見いだす事が出来ずに受験に失敗しました。それでも世の中を変えたい、幸せになりたいという強い気持ちがあり、有り余る力や気持ちの行き場に迷走していたんです。日本で受験に失敗した後、父にオーストラリアに行くことを勧められ、英語は全く分からない状態でしたが、一念発起し、シドニー大学に入学しました。
経済経営を学ぶ傍ら、音楽、特にヒップホップで自由に表現する事の素晴らしさに感銘を受け、トップダウンの社会ではなく、ボトムアップ型で発言するRAPで社会変革が出来ないかを模索するようになったんです。大型イベントのプロモート、コラムやラジオDJをシドニーでやったりと、人の感情を揺さぶる音の力で多くの人々を幸せにする事に夢中になりました。
ーその頃は音楽活動にのめり込んでいたんですね。
森若氏:毎年、学部を変えて、合計3学部行ったんですが、最後の方は大学よりも芸術活動に没頭し、自宅で絵を書いたり、詩を書いたり、ラップをしたり、仲間と踊りに行ったり。今考えても人生1〜2年のブランクがあってもいいんじゃないかと思います。多少ブランクがあると後々伸びるというか、できない人の気持ちもわかる人間になるかもしれません。医療系の学生で、将来しっかりした医師や看護師になりたいと思っている人にも言えると思います。
ーブランクを気にしてしまう学生も多いですが、励みになりますね。その後日本に帰り、家業を継いだのですか?
森若氏:いえ。25歳の時、自宅でYou-tubeでアメリカのラップばかりを見るのではなく、日本語でラップしてるテキサス流のラッパーのパイオニア、Dirty R.A.Yを見つけ、27歳の時に音楽で世界を変えるべくシドニーから東京に移り住み、彼と彼の仲間が運営するRiva Runz EntertainmentというHIPHOPレーベルに向かいました。ありのままの自分で音楽活動をする彼のスタンスに惹かれましたね。レーベル経営に精を出しましたが、6ヶ月間で結果が出せないもどかしさが残り、仲間たちから、実業家になるか、家業の後継をする事を進められ、下関に帰郷しました。父の会社への入社はすぐに許されず、6ヶ月間で約10キロ減量したり、教養を身につけるための勉強をしたりしました。
コロナ禍でも動じないー「当たり前のこと」
ー家業である「株式会社モリワカ」は、ご両親が創業されたとお聞きしました。
森若氏:そうですね。父と母が約50年前に自宅の四畳半からスタートした会社です。今では何万点もの医療機器を取り扱っていて、人工呼吸器も取り扱っています。実は30年前、実家の近くに医療機関が少なく、父は病院村を作るべく無償で開業支援を行っていました。その結果、沢山のクリニックができました。その周りには、ドラッグストアやジム、新しい家もたくさん建ちましたし、駅までできた時はすごく嬉しかったです。父は良い街を作りたいという一心でやっていたんですよね。私も父のように、地元医療・福祉に貢献したいという強い思いから後を継ぐことを決めました。
ー創業が1972年ですから、もう50年近くになるんですよね。
森若氏:そうですね、お陰様でもう直ぐ50周年を迎えさせて頂きます。創業からずっと地元の人を大切にして、当たり前のことをコツコツやっています。コロナショックでユニコーン企業や大企業でも大規模なリストラが起こるなど悲しいニュース流れていますね。「良い企業とは何か」が問い直される社会情勢の中で、最後は真剣に人の役に立とう考える真面目な企業が残るんだなと、感じます。
そして、家業だけではできないこともしたいと考え、5年前に、チャレンジする人を支援する会社、シリコンバレーベンチャーズを創業しました。自分で仕入れたシリコンバレーや世界の最新情報を皆さんにお伝えする活動をしています。
ー昨今、有名企業が必ずしも良い企業であるとは言えないということがわかってきました。人を大切にするという当たり前のことを積み重ねられる会社が残っていくのかもしれないですね。
自分を大きく変え、同志をも増やした「ビジョン」
森若氏:朝から晩まで週末も休まず、経営について苦悩する生活を送る中、シンガポール、上海、ベトナム出張の機会があり、そこで出会ったご縁から、世界を変えるために必要な事や明るい未来を見つけ日本を復活させるために、アメリカのハーバード大学で「リーダーシップやイノベーション」を学びたいと考えるようになりました。ハーバードビジネススクールのエグゼクティブ教育PLD (Program for Leadership Development)で世界中から選ばれたエグゼクティブの同級生たちと学ぶ事が出来ました。
多くの学びの中から、人や社会を変えるには「ビジョン」が大切だと痛感しました。私の内側からも、ビジョン、すなわち幸せの定義が自然と湧き上がってきたんです。ここでようやく「Innovations for a healthier life(世界中の人々のより健やかな人生のためにイノベーションを起こす)」のビジョンにたどり着きました。幸せとは、精神的、肉体的、経済的、社会的に「より健やか」な状態にある事だと考えました。「より健やかな」なので、healthyの比較級で、「healthier」です。医療、教育、芸術など人の生活に欠かせないものを通してイノベーションを起こし、世界中の人々がより健やかな人生を過ごす事で、より幸せだと感じて頂きたいと考えています。
ビジネスも社会活動も、全ては、世の為、人の為になる美しい事をする事が良いと思います。医療機器をご提供させて頂く事や、医療福祉機関の経営サポートをさせて頂く事で、医療従事者様の負担を軽減する事が、ベストプラクティスを患者様にご提供される事に繋がると考えております。このビジョンがあることで家業である会社も変わり、私自身も自分の会社を作ろうという気持ちになれました。シリコンバレー帰りの中国人の教授やドイツ人エンジニアと共に病院のお客様と現場の課題を解決する為の医療デバイスの開発を行うようになったり、テレビ取材を受けたりと様々な機会に恵まれています。ビジョンがあることで世界中に同志ができて、自分の人生もより幸せになりましたね。
ービジョンが持つ力って、スゴイんですね。
今だからこそ、学びを地元に還元すること
ーコロナショック後、医療や社会はどのような対応を求められるのでしょうか。
森若氏:医療ビジネスで言えば、新たなコミュニケーションインフラを整えることが大切です。コロナになってオンライン医療が重要視されていますが、医療データの流出等のセキュリティ面のリスクを最小限にすることを念頭に、患者様にとって安心してすぐ活用できるツールを整えること。病院内のチームでも、オンラインプラットフォームを活用するなどしてコミュニケーションをしっかり取ることが大事です。
また、現場の最前線で働かれている医療従事者、病院スタッフ、医療機器企業、製薬企業、開発者など、各地域医療を支える全ての人々によるエコシステムを構築し、患者様のためになる事をチームで行えるようにすることで、どの地域に住んでも、安心して医療を受けられる状態を作りあげる必要があります。
コロナショックによって、情報や富が一極集中する危険性が明らかになってきました。東京に人々を惹きつける要素を集めた結果、その人口を支える医療機関に過剰な負担がかかり、医療崩壊の危険性と向き合わざるを得なくなりました。これからは地方の時代です。自然豊かで食べ物も美味しい地方で、3世代で安心して、より健やかに生活出来る社会インフラを整備し、素晴らしい医療と教育を受けられる環境を整えたいと考えています。
自分が学んだことを活かして、日本や世界をより良くするという意識を一人一人が持たなければなりません。もっと世界に目を向けてほしいです。コロナショックの中ではSNSで世界中の人と繋がるのも良いと思います。私も最近は、世界各地の出会ったこともない投資家や起業家ともオンラインで繋がり、仕事をしています。自分から出会いを作りに行くことが大切ですね。
そして、自分の地元や身近なことに貢献する事が何よりも大切だと思います。一人一人の努力が地方創生に繋がります。まずは、家族と連絡を取る事からはじめても良いと思います。
医療と教育に投資をして命を救う
ー今後の展望はありますか。
森若氏:一社でも多くの日本企業の皆様に、世界のイノベーティブな企業と連携したり、投資したりして、世界中の命を救うことに目を向けて頂ければ幸いです。国内外問わず、医療と教育に投資する事が、世界と日本の未来を救うことに繋がると信じています。
例えば、インドの製薬メーカーを経営するハーバードの盟友は、コロナに打ち勝つ薬の開発を一緒に作る日本企業を探してくれないかと言っています。また、イスラエルの医療用に使えるドローン、IoT、ヘルスケアAIなどのスタートアップ企業からも日本企業との連携や投資の依頼が寄せられています。けれども多くの日本企業は、日本に進出してくれないと投資しない、ということが多いんです。会社に投資をしてその会社が大きくなれば、自分に返ってくるお金も社会的インパクトもあります。
大企業や投資家の皆さんには、自分たちに出来ない事は投資をして、株を取得し、一緒に実現しようという動きを広げていって欲しいです。日本人は日本に短期的に有益なものにしか投資しないというドメスティックな考えはやめて、世界で命を救うということを一緒に考えたいです。
ー最後に、医療を志す学生や若い医療者へメッセージをお願いします。
森若氏:このような危険な時期なので医療の仕事を辞めてしまう人も少なくはないと聞いています。医療の仕事やそれを目指される方々は本当に素晴らしいと思いますし、現場で活躍されている医師をはじめ医療従事者の方々には心から敬意と感謝を表します。
このような未曾有の事態では、全ての人が垣根を超えて連携することが求められます。そのためには今のうちから色んなコミュニティに属して、大きく成長していって欲しいですね。私も純粋に心からやりたいということをやっていますが、結果的に全部が繋がって、イノベーションの力になっていく感覚があります。
皆様もいろんな人に出会い、多くのことを学んで、その学びをアウトプットしてください。一人一人がオピニオンリーダーとなって自分の意見を論じることで、世界を変えて行って欲しいと思います。一人一人が変わる事で、世界は変わる。一人一人がより良い人になる事で、世界はより良くなる。一人一人がより幸せになる事で、世界は、日本は、より幸せになる。愛がある人が増える事で、愛に溢れた社会になると信じています。
ー医師、医療系企業、政府など関係者全員が垣根を超えて連携し合うことが大切ですね。そのためにも、今から多くのコミュニティで学び、その学びを発信していきたいと思います。本日は貴重なお時間ありがとうございました。
森若氏:最後までお読みくださり、愛りがとうございます。
※今回のインタビューは、オンラインにて実施致しました。
森若 幸次郎 (John Kojiro Moriwaka)ープロフィール
団体名
株式会社モリワカ、株式会社シリコンバレーベンチャーズ、情報経営イノベーション専門職大学、Startup GRIND TOKYO、US-Japan MedTech Frontiers、Moriwaka Fundなど
活動内容·事業内容
・株式会社モリワカ(役職:専務取締役兼CIO)
1972年創業の医療機器イノベーション企業。医療福祉施設にCTや透析機器などの医療機器、特別浴槽などの福祉機器、リハビリ機器の販売、修理、個人のお客様向けに電動車椅子、ベッド、ストーマ製品など販売。医療デバイスの開発やOEM、開業、経営アドバイス。
https://moriwakamedical.wixsite.com/home
・株式会社シリコンバレーベンチャーズ(役職:代表取締役社長兼CEO)
2015年創業のイノベーションアドバイザリーファーム。皆様のビジネスがイノベーション創出するために、戦略的アドバイザリー(顧問)や経営コンサルティング、講演、ワークショップ、イベント、アクセラレーター、コラム、海外視察ツアーなど。世界中の有力スタートアップや企業を日本に紹介。
https://siliconvalleyventures.site
・情報経営イノベーション専門職大学(役職:客員教授)
就職率0%、起業率100%を目指す2020年4月開校した大学。
https://www.i-u.ac.jp
・Startup GRIND TOKYO(役職:Co-chapter Director)
シリコンバレー発世界120カ国、350都市で開催される100万人規模の起業家コミュニティ
http://startupgrind.tokyo
・US-Japan MedTech Frontiers(役職:メンバー)
シリコンバレーと日本をつなぎ医療機器イノベーション創出を目指すNPO
https://www.usjmf.org
・Moriwaka Fund(役職: Founder)
ベトナムのフエ医科薬科大学の医学部生向け奨学金
・コラムニスト 毎月連載中
Forbes JAPAN
https://forbesjapan.com/author/detail/1115
日刊工業新聞
https://www.nikkan.co.jp/articles/search?q=森若幸次郎
りそな銀行情報メディア りそなCollaborare
https://resonacollaborare.com/?s=森若幸次郎
・著書「ハーバードのエリートは、なぜプレッシャーに強いのか」(学研プラス)
https://www.amazon.co.jp/ハーバードのエリートは、なぜプレッシャーに強いのか?-森若幸次郎-ebook/dp/B01CJL28MU
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