“人に頼る”“完璧じゃなくていい” 意外なマルチタスクの秘訣に迫る
“仕事 vs 家庭”多くの女性がぶち当たる、この葛藤。「対立でなく、両立させる」ひときわ忙しい医療界で、どうしたら仕事と家庭を両立し、自分が納得できる人生を歩めるか?
そのヒントを求めて、マルチに活動されている、医師であり5人のお子さんのお母さんでもある、吉田穂波 (よしだほなみ)先生にお話を伺いました。
産婦人科医が考える結婚観から仕事と家庭を両立する秘訣まで、女子医学生4人で生の声を深掘りしました。全 2 回に分けてお送りします。
文:金井彩音/構成・写真:稲垣麻里子/デザイン:吉富櫻嘉
聞き手(50音順)
ゲスト
吉田 穂波 先生
神奈川県立保健福祉大学ヘルスイノベーションスクール設置準備担当教授。
産婦人科医、医学博士、公衆衛生学修士。三重大学医学部卒。
聖路加国際病院にて臨床研修の後、名古屋大学大学院医学系研究科で博士号を取得。その後ドイツとイギリスで産婦人科及び総合診療を学びながら、第1子 の出産・子育てをする。帰国後は女性医療の推進に携わりながら第2子・第3子を出産。2010年ハ ーバード公衆衛生大学院へ留学中に第4子を出産。公衆衛生学修士号を取得した後、安倍フェロー シップを得て同大学のリサーチフェローとなり政策研究に取り組む。2011年の東日本大震災をきっかけに災害時の母子保健整備の必要性を感じ、人財育成、政策研究やガイドラインの作成など、母子保健レ ベルの向上に尽力しつつ第5子を出産。国立保健医療科学院を経て、2018年より現職。
目次
しんどい時に救われた、母の言葉
人に頼ることは、その人への信頼の証
笑顔が残る程度に、頑張る
変化の時代に生きる、若い世代のみなさんへ
しんどい時に救われた、母の言葉
マルチな分野でご活躍され、時には海外で勉強をされていました。そんな忙しい中、どうやって仕事と妊娠・出産・育児を組み合わせてらっしゃるんですか?
いろいろな要素がありますが、もちろん初めからうまくできたわけではありません。子どもが増えれば増えるほど、負担が増えてきて、同時にいくつものお手玉をくるくる回しているような状態でした。子育て、仕 事、家庭…それぞれの側面では頑張っているんですよ。お母さんとしても頑張りたいし子どもはかわいい。仕事も好き。でもその気持ちだけではうまくいきませんでした。 例えば、生後 6 ヶ月の長女が喘息になった時は、その看病と産婦人科医としての仕事の両立に疲れ、 大好きな仕事を辞めようかとさえ思いました。 そのとき母に相談したら、こう言われました。
「人に頼りなさい。自分の力で無理な時は誰かの力を借りたら いいの。」
人に頼るのって案外難しいですよね?
当時の私もそう思いました。「子育てはみんなやっていることなのだから、誰かに頼るということは自分の無能さを明らかにするようなものだ」、「頼る=甘えている、ということではないか」という刷り込みが自分にもあり、人に迷惑をかけるなんて恥ずかしいと思っていました。でも当時、本当に切羽詰って誰かに頼らざ るを得ない状況となり、頼ってみてはじめて、頼ることの重要性が見えてきました。
頼ることの重要性?
この頼る力を、私は“受援力”と呼んでいます。なにかに困ったり分からなかったりした時、人に聞いたり助けを求めるための力です。
(詳しくは拙著「受援力を身につける~『つらいのに頼れない』が消える 本(あさ出版)」をご覧ください。)
初めて聞いた単語です。詳しく教えてください。
人が生きていく上で、一人ではできないことはたくさんあります。受援力があれば、一人でできないことも人に助けを求めることで達成できます。例えば、私は、東日本大震災をきっかけに被災地支援のボラ ンティアを買って出ました。現場で災害時の母子保健整備の必要性に気づいた時、まずは国内外の人に支援を呼びかけました。その後、災害時の妊婦さんや赤ちゃんを助けるトレーニングコースを作り、地道に活動をしていました。それが、今では神奈川県をはじめとしたたくさんの自治体と一緒に活動ができ、国の政策を考えるまでに至りました。これは、「災害時に困っている妊婦さんがこれだけいます!これだけ困っています!どうにかしたいんです!」と地道に発信し、「次の災害に向けて、母子を守るために準備をしておきたいんです。」「どんなアドバイスでも聞きます、情報を教えてください!」と周囲の人に頼ったことで実現したことです。
さらに、頼ることはその相手に対して信頼と尊敬を示すことにもなります。人から頼られると、みなさん嬉しいですよね。実際に、「どんなアドバイスでも聞きます、情報教えてください!」と言えば、喜んで人の役に立ちたいと思っている人と出会えて、いろんな情報が集まってくる。そうやって応援してくれる人にとっては、頼られることが大きな信頼と称賛の証なのです。
頼ることはコミュニケーションやチーム作りのきっかけにもなり、そこから新しいご縁がはじまります。
笑顔が残る程度に、頑張る
マルチタスクをしていく中で大切なことは受援力以外にもあります。例えば、時には「完璧を目指さなくてもいい」と思うこと。私は仕事も勉強も家事も育児も、毎日シャカリキにならなくてもいいと思っていま す。笑顔が残る程度に頑張る、つまり、時には家族とのんびり時間を過ごしたり十分すぎる睡眠時間をとったりすることが、次の日の有効な時間の使い方につながるんです。
スーパーキャリアウーマンともいえる吉田先生から「完璧じゃなくてもいい」という言葉を聞くと、安心し ます。今日のお話は最初の先生のイメージと違っていて、興味深かったです。
「仕事もしつつ、子育ても育児もして、その上で新しいことにも挑戦して、どうやって日々を回しているんですか?」とよく聞かれます。拙著「『時間がない!』から、なんでもできる!(サンマーク出版)」でも書いたように、困難を逆手にとって、なんでも同時並行で進めたように思われますが、すんなりすべてがうまくいったわけではありませんでした。例えば、留学のための奨学金に申請しても、不採択通知ばかりでしたし、 ハーバード卒業直前には、単位登録のトラブルで「卒業は認められません」という通知を受けたこともありま す。いつだって多くの人の理解と協力をいただきながらデコボコ道を歩んできたので、「これが絶対に正しい!」とは言えることはありません。ただ「こんなやり方もあります。」という実践例や、「トラブルを災いとみな すか福とみなすかで、その後の結果が変わってくる。」といった先輩方から教えてもらったことなら話すことが 出来ます。こういうお話が、みなさんが生きていく上でのヒントになればと思っています。
変化の時代に生きる、若い世代のみなさんへ
最後に、私たち特に女子学生に向けてメッセージをお願いします。
よく学生さんに「忙しくなる前にやっておいたほうがいいことはありますか?」って聞かれますが、これからはこの質問が変わってくると思っています。
どう変わってくるんですか?
今までって「やっておいたほうがいいから、やる」っていう発想がありますよね。また、仕事をする上でも、 “本当はやりたいけどやれない趣味”と“本当はやりたくないけどしないといけない仕事”とが切り離されていますが、これからは「好きだからやる」、「自分の強みになるから伸ばす」と考え、趣味と仕事を相乗効果で活かし合っていくということが重要になっていくと思います。
だからこそ、今はまず好きなことや何時間でも夢中になれることを見つけてほしいです。ゲームでも漫画でも構いません。 まだ、これといった趣味がない人は、人に教えてもらっていろいろやってみるといいと思います。 仕事を始めてつぶれそうになった時でもそれが支えになりますし、趣味での人とのつながりは肩書や立場、 自分の世代を超えて普遍的なので大事にしてほしいです。
そして、時間のある学生時代には好きなことをとことんまでし尽くしてほしいです。好きなことを極めた人の言葉って重みがあって影響力がありますしね。
あとは、できるだけいろんな人に会うこともおすすめします。何かを知りたいと思った時に、ウェブ検索や e ラ ーニングで分かってしまう便利な時代ですが、これからは情報収集は Google 先生にお任せし、情報の利活用を求める時代。人に実際に会うと、断片的な情報だけでなく、その人の生き様や言葉のエネルギ ーが伝わってきて全く違う学びになると思います。
最後に繰り返しになりますが、先ほどお話した、“受援力”。人に頼ることを、もっとポジティブに捉えてほしいです。自分の達成目標が10だとすると、8や9になってやっと人に話したり発信したりする人も多いと思 います。私は1や2もはや0の段階でもいいから、「こんなことしたい!」、「こんな目標があります!」と周囲にアピールすることが大切だと思っています。そうやってアピールすることは、難しいし勇気がいることですが、 そうすればきっと力になってくれる人に出会えますし、自分の「やりたい気持ち」が確固たる信念になって熱意が伝わります。ぜひチャレンジしてほしいです。
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