医学生が医学生のために選ぶ、あたらしい気づきが得られる本6選(前編)
医学生のみなさん、テキスト以外に普段読書をする習慣はありますか?勉強の息抜きに、あたらしい価値観に出会える本を手にとってみてはいかがでしょうか。
本日は、順天堂大学医学部5年の吉富さんと、東京医科歯科大学医学部5年の中原さんに、勉強の息抜きに最適な小説や哲学書、ビジネス書等について、各自3冊ずつ教えていただきました。
—早速ですが、中原さんからお気に入りの本を3冊紹介していただけますか。
僕のおすすめは、「人間失格(太宰治)」「理性の限界(高橋昌一郎)」「寝ながら学べる構造主義(内田樹)」の3冊です。
人間失格(太宰治)
人間の心は本当は汚い部分も多いだろうけども、そんなところもいいよな…と自分を捉え直すきっかけになった1冊ですね。
本書では大庭葉蔵という主人公が、少年時代、青年時代、晩年を手記によって語っています。自分や他者を欺き、傷つけ、泥沼にはまって壊滅へ向かう主人公は、物語終盤に精神病と診断され、「人間、失格」の烙印を当時の社会から押されるに至ります。
日本人なら誰でも経験した事があり、人と共有するのは憚られるである感情をさらけ出し、綺麗な文体にまとめあげているんです。
読めば読むほど主人公の語りに惹きこまれ、「この感覚、わかる」という感覚で、大庭葉蔵が抱える様々な思いに共感しながら読むことができます。
自分の邪なふるまいと感情を決して肯定せず、しかしどこか満足げに表現した文から太宰治が精神病を患い自殺したことも納得できるような苦悩と凄みを感じる名著です。
—決して綺麗とはいえない人間の本来の性(さが)に触れられる良書なのですね。太宰治といえば、「走れメロス」は多くの人が教科書で読んでいるでしょうが、「人間失格」はその内容ゆえ教科書には掲載されていないため、読んだことがないという方も多いのではないでしょうか。これを機に手にとってみたいと思います。
寝ながら学べる構造主義(内田樹)
これもめっちゃ面白いです(断言)。
僕たちは自分が持っている考えを当たり前のように主張しますが、自分の考えというのは、時代を席巻する思想に大きく依存しているんです。
例えば現代では、差別をなくすという考えは当たり前で多くの人に共有されたものですが、1950年以前はマルクス主義に準じた、洗練された文明に向かって社会を発展させていくべきだという主張が主流でした。
この頃活発に行われていた植民地化を例にあげると、アフリカのサバナやアマゾンの湿地帯など、いわゆる「未開の地」に住んでいる民族は、西洋の洗練された文明で開拓してあげないと、というように、良いことをしているような感覚で植民地化をしていたようなんです。
しかし現代は構造主義(特にクロード・レヴィ=ストロースという文化人類学者の研究)に基づいた、人間の文明に尊さ・野蛮さの差はないという考えが一般的ですよね。
このように、今の私たちの思想は元から持っているものではなく、時代ごとに主流な思想に大きく依拠していることが分かり、衝撃を受けました。
近代的な思想(マルクス主義やサルトルの実存主義)に異を唱え、「現代的なものの見方」の礎を築いた構造主義、その黎明と思想の概要をわかりやすくまとめています。
私たちの思想の根底を解き明かす良書だと思います。
—時代が変われば人間の主張も変わってくるという、当たり前のようですが非常に興味深い事実に気がつくことができました。これを機に、自分の主張の源流がどこにあるのか調べてみても良いかもしれませんね。
理性の限界(高橋昌一郎)
この本では、現代において人間の理性が対峙している壁を紹介しています。ディベート形式で記述され、本来難しい内容が素人にもわかるようになっているのでぜひ読んでほしいですね。
「選択の限界」「科学の限界」「知識の限界」と大きく3つの章で構成されており、それぞれについて現在の人類の立ち位置をざっくりと示してあります。
例えば「選択の限界」では、完全な民主主義は不可能だと数学で証明したアロウの不可能性定義が、「科学の限界」では現在の科学で実証できていないものの存在や科学そのものに対する考え方の限界が、「知識の限界」では論理学的なフレームワークの限界について、それぞれ紹介されています。
「知識の限界」の章で登場する「ぬきうちテストのパラドックス」は面白かったですね。例えば教授が、月曜日から金曜日のいずれかでぬきうちテストをやりますと言ったとします。ですが仮に木曜日までテストが実施されなかった場合、テストは金曜日に実施されるのだと分かってしまいますよね。ぬきうちテストは、いつ実施されるか分からないテストというのが本質なので、こうなってしまっては金曜日にテストを実施してはいけないことになるのです。
このことを前提すると、抜き打ちテストは月曜日から木曜日のいずれかで行うことになりますが、先ほどと同じように水曜までになければ木曜がテストだとわかってしまい木曜日にもなんと抜き打ちテストは行えません!
このようにして来週抜き打ちテストを行うことは「論理的に」不可能になってしまいます。
医学を学んでいるだけでは気が付けない、他の学問の触りの部分を知ることができますし、自分が考えつかないような事柄について深く考えるきっかけになるので、本当におすすめの1冊です。
いつも、頭の中が豊かになればいいなと思って暇つぶしに読書しています。気になる本があればぜひ読んでみてください。特に内田樹さんの思考はとても腹落ちすることが多いのでぜひ一冊本屋で手に取って立ち読みしてください。
中原さんが紹介してくれた本は、医学以外の学問が学べたり、人生にも生きる新しい発見が得られたりと、学びの深いものばかりでしたね。後編では、吉富さんよりおすすめの3冊を紹介いただきます。
この記事へのコメントはありません。