【医学生のその時心が動いた】#2:放射線科
皆様は最近、心を動かされたな, 知ってよかったな, という感動体験はありますか?この文章は、筆者が実習で感動した体験を自由に綴っていきます。更新は不定期ですが、どうぞ温かい目で見守っていてくださると幸いです。
目次
【放射線科】
医者にとって、今やなくてはならないCTとMRI。使い方を身につければ非常に便利な道具ではありますが、ちょっとゴチャゴチャして難しいので苦手意識がある人も多い分野。そんな放射線に焦点を当てていく#2始めていきます。
⚠️今回はとても長く複雑なので覚悟して全部読むか、色がついているところだけ読んでいただければ良いかと思います。
–単語のおさらい–
まずCTとMRIとはなんぞやって言うところから始めます。よく聞くレントゲン, X線, CT, MRIの違い、わかりますか?(ここら辺の区別って意外に重要)
・X線はレントゲンの正式名称(この2つは同じ)で、正体は電磁波(放射線の一種)です。
・X線を用いて体をだるま崩し様に輪切りに撮影したのがCT
・磁気を用いて体をだるま崩し様に輪切りに撮影したのがMRI
つまりX線とCT(=Computed tomography)は放射線を用いているので、少なからず被爆しています。MRI(=Magnetic Resonance Imaging)は放射線を用いておらず、磁気に共鳴しやすい水素分子の動きを見ているだけなので被爆の心配はありません。
※「被曝」とは放射性物質が放出する放射線に人体がさらされることを言いますが、ガンマンが発射する弾に当たるイメージでよいでしょう。
-X線とは?–
先ほど被曝に関してガンマンが発射する弾に当たるイメージと言いましたが、X線はあまりにも小さい弾すぎて人体を通り抜けていきます。なので「発射台→人体→受け止める板」の順番で人体の内部を撮影しています。最終的に「受け止める板」を医療者はX線写真として見るわけですが、うまく人体を通過したところは黒く、人体の中で臓器にぶつかって、吸収されて受け止める板(X線写真)までたどり着かなかった場合、白く写ります。X線を黒色のペイント弾だと考えると分かりやすいかもしれません。
X線はぶつからないと黒く(=低吸収)、ぶつかりまくると白く(=高吸収)写ります。空気の多い肺などは全然ぶつからないので黒く(=低吸収)写ります。
基本的に人体を通過するX線ですが、わざと体の中にX線が通過できない物質を入れることでX線写真の狙ったところを白くする作戦を医療者がとる場合があります。それを造影といいます。例えば、腫瘍に集まる性質を持っているX線不通過物質(=造影剤)を血管内に注射してからX線撮影すれば、X線写真に腫瘍が白く写るわけです。考えた人マジ天才卍。
X線とCTの使い分けに関しては、X線が冠状断(1枚)なのに対し、CTが水平断(人体を下から1cm刻みなどでスライスしていくので170枚くらい)で内部の構造を詳しく見ていく時に用います。
もちろんCTの方が詳しくわかるが、その分お金もかかるので、現場ではX線を撮って怪しいと思ったらCTを撮るなどしています。
-MRIとは?–
我々の体は実に60%が水でできていると言われ、水を構成する水素原子は無数にあります。
水素原子は普段何の信号も出しませんが、強い磁場の中では、水素原子核(プロトン=H+=陽子)が磁石の働きをするようになり、ラジオ波によってエネルギーを与えることで信号を発するようになります。H+からの信号を画像化したものがMRIなのです。ちなみに「信号強度(高~低~無)」=「H+の密度(その物体がどれだけH+を含んでいるか)」×「緩和時間(後述するT1値とT2値の相関)」で決まります。つまりH+をたくさん含んでいる脂肪や水は高信号になりやすく、ほとんど含んでいない空気は無信号になりやすいということです。
MRIには何種類か撮り方があり、T1強調画像、T2強調画像、STIR、FLAIR、DWI、ADCなどありますが、その区別をする必要があります。
T1強調画像とT2強調画像
T1とT2を理解するのは容易ではないですが、MRIの仕組みを理解すると区別できます。MRIとは様々な方向を向いている体内のH+(↑,→,↓,←:様々な向きの矢印だと思ってください)をまず磁場で整列(↑)させ、次にラジオ波をかけて90度倒し(→)、ラジオ波を切るとH+が得たエネルギーを信号として放出(これを拾って画像化)し、元の整列した方向に戻ります(↑)。この時、横(→)から縦(↑)に戻る時間を縦緩和時間(=T1値)といい、T1強調画像とはT1値が短いもの(=より早く元に戻る物体)を高信号(=白色)で示した画像です。
T1強調:脂肪=高信号(白色), 水・筋肉=低信号(灰色), 空気・骨=無信号(黒色)。さらに、H+は横(→)から縦(↑)に戻る時にエネルギーを放出しますが、物体によって放出する速度が異なり、持っているエネルギーを全て放出するまでにかかる時間を横緩和時間(=T2値)といい、T2強調時間とはT2値が長いもの(=より長く時間がかかる物体)を高信号(=白色)DE示した画像です。
T2強調:脂肪・水=高信号(白色), 筋肉=低信号(灰色), 空気・骨=無信号(黒色)。同じようにH+を多く含む脂肪と水でも、脂肪はT1高(白色)/ T2高(白色)、水はT1低(灰色)/ T2高(白色)となります。
STIR(=脂肪抑制画像)
先ほど述べた通り脂肪はT1とT2のどちらにも高信号を示すので、正常な脂肪組織に隠れた病変などの検出能が落ちてしまうことがあります。そんな時にSTIR(Short-T1 Inversion Recovery:T1緩和時間差法)を用いて脂肪の信号を抑制してやることで、病変の検出能の向上および脂肪組織と接する臓器の境界描出に役立ちます。頭頸部領域のMRIで用いられることが多いみたいです。
FLAIR(フレア)
FRAIRとはT2強調画像の一種で、脳脊髄液が黒くなるように条件を変えたものです。基本的に脳脊髄液は脳幹の中(=脳室)を常に流れていますが、ただのT2強調画像で撮ると脳脊髄液は水なので白く写ってしまい、周りの組織と区別が付きません。
そんな時にFRAIR(Fluid-attenuated Inversion-Recovery)を用いて流れる水の信号を抑制してやれば、MRIで輪切りにした時に黒く抜けている部分が脳室であることがすぐに分かる訳です。
DWIとADC
これは拡散強調画像と呼ばれるもので、脳血流の梗塞部が白く高信号に描出されるので非常に分かりやすくて有用です。DWI(Diffusion weighted image)の仕組みは水素原子の拡散運動を画像化したもので、簡単にいうと2回に分けて同じところにMPG(motion probing gradient:動くものを捉える信号)を照射し、1回目にいた水素分子が移動(=拡散)して2回目の信号がなければ低信号、水素原子がその場に止まっていれば2回とも信号が跳ね返ってくるので高信号とします。正常の脳血流は常に流れていて、水素原子も拡散が活発であるため低信号です。しかし、梗塞が起きると脳血流が停滞し、水素原子の拡散も低下するため高信号を呈する、という訳です。
DWIは特にCTでは描出することができない、超急性期または急性期の脳梗塞診断に非常に有効で、救急医療の分野で広く用いられています。
また、ADCは拡散係数を画像化したものでADC-mapとも呼ばれ、よく拡散している正常血流ほど高信号に白く写ります。つまりDWIが止まっていると高信号に白く写るのに対し、ADC-mapは動いていると高信号に白く写ります。炎症部位では細胞間橋が破壊されて細胞間質(=細胞と細胞の間)がスカスカなので水素原子がよく動き、ADC値が高くADC-mapは高信号を示しますが、良性腫瘍→悪性腫瘍→悪性リンパ腫の順に細胞密度が高くなっていくので水素原子の動きが制限されてADC値が下がりADC-mapは低信号を示します。
まとめ
とまあ、こんな感じでツラツラ書きましたが、今の段階で原理まで分からなくても画像が読めれば全く問題ありません。X線は「吸収」、MRIは「信号」ということだけ覚えておけばいいでしょう。どうしても原理が気になった時に、そういえば誰かが熱心に書いていたなーと思い出してまた見返してくだされば嬉しいです。ここからは完全な余談です。
–なぜ出血するとCTでは白く写るの?–
赤血球は鉄(重金属26番)を多く持っていて、脳内で出血すると空間に対しての密度が増加するためX線が吸収されて白く写る(高吸収値)。それと似た原理で造影CTには「水溶性非イオン性ヨード造影剤」を用いるが、ヨードは53番で分子が大きく、密度が増加するため高吸収性に白く写る。
–なぜ脳内の腫瘍が造影されるの?–
脳内は基本的にBBB(=Blood Brain Barrier:血液脳関門)があり動脈に造影剤を流しても静脈に抜けてしまうので造影されない。腫瘍は血管新生(腫瘍が成長するために周囲の血管から自分に向かう新しい血管を作り出すこと)をするが、BBBで覆われていないため、造影剤が血管外に漏れ出て造影される。
ちなみにBBBとはブドウ糖と酸素しか必要としない神経のために脳血管内皮細胞(血管の壁を構成する細胞)とアストログリアが形成する目の細かいザルみたいなもの。脳の中の細胞は、神経細胞(=ニューロン=中枢神経)の他には主に3種類あり、全てグリア細胞の一種である(グリア=「接着剤」の意)。
1つ目はアストログリアで、神経細胞を栄養している(脳血管を覆っていて、血管から酸素を取り出して、神経細胞に与えている。こいつが血液脳関門を構成している)。
2つ目はオリゴデンドログリアで、神経細胞の「髄鞘」として働いている。髄鞘とは絶縁体の役割をしていて電気信号の伝達に関わるが、脂質なのでCT値は水より低い。
3つ目はミクログリアで、脳の免疫を担っていると考えられている。
-Early CT signとは?–
①脳の皮質・白質の境界消失(皮髄境界消失), ②シルビウス裂の狭小化や脳溝の狭小化・消失, ③レンズ核の不明瞭化, を伴う初見であり、超急性期の脳梗塞(発症後1~24時間、多くは6時間以内)に認められるCT値の低下(黒色)である。これは梗塞に伴う細胞傷害性の浮腫により細胞間質に組織液が溜まる結果(スカスカになるので)、皮質のCT吸収値低下が起こっている(細胞が豊富で吸収値が高く白く写っていた皮質が、細胞が少なく吸収値が低く黒く写っている髄質と同程度の吸収値まで低下する)と考えられる。Early CT signは一般に不可逆性と考えられている完成した梗塞を示す。
ちなみに「虚血」した部位の先の細胞が壊死すると「梗塞」した, と表現するので、順番的には「虚血」→「梗塞」であり、梗塞レベルまで行くと不可逆性であるが、虚血レベルならすぐに血流を再開してやることによって細胞の電気生理学的機能が復活する。
虚血と梗塞の境界を表す言葉があり、「Ischemic core」は脳血流が40ml/100g/minから10ml/100g/minまで低下した領域を表し、もう救うことができない梗塞レベルを指す。
一方「Ischemic penumbra」は脳血流が15-20ml/100g/minまで下がって細胞の電気生理学的機能が停止しているが、血流を再開してやれば元に戻る領域を表し、虚血レベルを指す。
Ischemic penumbra(ペナンブラ)は6時間くらいでIschemic coreに移行してしまうので、ここから血栓溶解療法(t-PA)のタイムリミットが設定されていることを知り、感動した。
Early CT signがあるところは既にIschemic coreで救うことができないが、その周りのIschemic penumbraを救うことが目標になる。
ちなみに梗塞はDWIだと高信号、ADCだと低信号となる。理由は梗塞が起きると血流が停滞するので血管が拡張し、間質の細胞が圧迫されて内部の拡散係数が下がるからで、さらに血流が悪いせいで温度が下がり、さらに拡散係数が下がってしまう。脳浮腫も同じ理由で間質の細胞が圧迫されるのでDWIだと高信号、ADCだと低信号を示す。
逆に高血圧性脳症だと急激に血圧が上がるのでBBBが破綻し、血漿成分が漏れ出てしまうので拡散係数は上昇し、DWIで低信号、ADCで高信号を示す。
まとめ2
以上が#2となります。今回は内容が複雑でつい、いろいろ書いてしまいましたが、せっかくなので一括で掲載してしまおうと思います。ここまで読んでいただいた方、筆者の感動に付き合っていただいて本当にありがとうございます。自分が放射線科で習ったときは全くわからなかったので苦労しましたが、同じように分からなくて悩んでいる人の理解の助けになれば幸いです。ではまた#3でお会いしましょう。
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