ベンチャー就職、そして起業へ「起業ノウハウはこうして学べ」

ビジネス

「医師」と言えば、「病院で働いている」イメージが強いはず。しかし探してみると、全く違うキャリア形成をしている医師に出会えます。今回は、病院で働く中で感じた社会課題を解決するべく、病院から飛び出し「起業」という選択をした先生に、話を伺います。

”救急車のたらい回し”という社会課題の解決を目指す「断らない医師採用サービス Dr.’s Prime」。このサービスを提供する、株式会社ドクターズプライムの代表取締役である田 真茂(でん まさしげ)医師。

ドクターズプライムのサービスの内容から起業のきっかけ、学生時代のエピソード、組織づくりのヒントまで、医学生5人で深掘りました。盛りだくさんなインタビューを3回に分けてお送りします。

文:金井彩音/構成・写真:稲垣麻里子/デザイン:吉富櫻嘉


聞き手(50音順)



ゲスト


(写真をタップすると拡大できます。)

田 真茂 先生

株式会社ドクターズプライム代表取締役。帝京大学医学部卒、救急医。聖路加国際病院にて初期研修を受ける。研修終了時の臨床研究発表では優秀賞を受賞。その後、同病院の救急救命センターにて”断らない救急”を実践する。2016年株式会社メドレーを経て、2017年株式会社ドクターズプライムを創業。”断らない救急医療”を目指し「断らない医師採用サービス Dr.’s Prime」の提供を開始する。経済産業省主催の、始動Next Innovator 2017(グローバル起業家等育成プログラム)では、全国242名の起業家のなかからシリコンバレー選抜、最優秀賞発表者に選出される。

目次

医療現場で働いて気づいたこと

病院からベンチャー企業へ

今いる環境で、ひたすら学びとる

幸せを感じるのは、お金じゃない

起業を考えている人へ


医療現場で働いて気づいたこと


勤務医にとって、起業するって大きな意思決定だと思うのですが、先生はどのタイミングで決めたのですか?

初期研修のときかな。もし最初から起業しようと思ってたら、きっと医学部に行ってないと思うんだ。
卒業後は日本で一番の研修が受けられると思って、研修先に聖路加を選びました。これから頑張るぞという高いやる気を持って、わくわくしていたんだよね。

でも、研修が始まってみたら、理想のイメージとは異なっていたんだ。人の命を救うために生き生きと働いているというより、業務に日々追われているように感じられたんだよね。それを見て、「どうしてこんなに忙しいんだろう?」って思った。そのとき本質的な課題に気づいたんだ。

本質的な課題ですか?

具体的に言うと、聖路加のような三次救急病院は患者数も多く、カルテ業務も膨大。忙しすぎて、これでは一人一人の患者さんに寄り添う時間が十分にない

他にも、働きながら実際に経験して感じた課題もあった。それは、少しでも助かる可能性がある患者さんがいても、対応すべき患者さんの数が多すぎることで対応を継続できないような状況があるということ。

ある時、窒息で心臓が止まってしまった20代の男性が運ばれてきた。心停止時間が長く、脳の機能を保護するための治療は適応外だった。つまり、大半の医師は、この人を助けるための治療を選択しないということになる。
しかし、治療方針を一律に定めるガイドライン上は適応外であっても、100%助からないわけではない。1%でも助かる可能性がある限り、目の前のこの人を助けたい。助けたいのに、助けることが正とされない現実が悔しかった。

忙しすぎて、「人を助けたい」という気持ちよりも、「業務をこなさなければ」という気持ちになってしまう人が多い。そんな状況を目の当たりにしたんだ。

「医師の忙しさを解決して、もっと患者さんに寄り添える環境を整えたい」そんな気持ちが起業につながったんですね。

その通り。医療現場での、このもやもやした気持ちが起業につながったんだよね。

三次救急の病院はなぜ忙しいのか
それは、一次・二次救急病院で本来診るべき患者さんが三次救急病院に運ばれてくることが多いから。これって、周りの二次救急病院が救急車を断っていることが原因だと気づいたんだ。

なぜ、二次救急病院は救急車を断るのか
それは、普段三次救急病院で忙しく働いている医師が、他の病院での土日や夜間のアルバイト中に救急車を断るからなんだ。

二次救急病院が救急車を断り、三次救急病院が忙しくなる。三次救急病院の勤務で疲れている医師が二次救急病院で働いてまた断る。この悪循環が生まれている。
「他の医師も救急車を断っているんだから、僕たちも救急車を断わるよ」ということなんだ。

今の事業のアイデアを思いついたのは、この現状を知ったからなんだ。


病院からベンチャー企業へ


この事業を始めたのは初期研修のときですか?

僕は聖路加に初期研修含め3年間勤務して、その後、株式会社メドレーで2年間、セールスとして働いていた。会社として登記したのは、メドレーに入って2年目の2017年。そして、メドレーを卒業して2018年4月に独立した。

なぜそのタイミングだったんですか?

もともと起業するつもりだったけど、ビジネスについては全くの素人だったんだ。だから、起業する前にビジネスについて学ぶために、メドレーで働かせてもらったんだ。

共同創業者はどうやって選んだんですか?

共同創業者の髙橋は中高の同級生。彼は新卒入社後にサイバーエージェントアメリカの立ち上げに関わり、その後、メルカリでマネージャーとしてプロダクト開発に携わっていた。
実は、僕が医師になったきっかけも高校3年のときに髙橋に医学部を勧められたことなんだよね。
もともと難民支援に興味があって国際関係の学部に行きたかったんだけど、髙橋から「難民支援するなら医療技術があったほうができることが広がるよ」って言われたんだ。その言葉がなかったら、医師になるという選択はしていなかったと思うので、今医師になれたのは彼のおかげだと思っている。

髙橋さんとは高校卒業後、ずっと交流があったんですか?

髙橋とは高校卒業してから10年ぐらいずっと会ってなかった。
メドレー入社時、「病院辞めてメドレーに入社してビジネスを学びます!」ってFacebookに投稿したら、「久しぶりに会おうよ」ってメッセージが来たんだよね。
渋谷の中華料理屋で「髙橋と一緒に働きたい!」って、自分の熱い思いをぶつけたら、その日に一緒に事業を始めることが決まったんだ。そのときはまだ彼がどんなスキルを持っているのかよく知らなかったけど、“スキル”で選んだというよりも“人”で選んだ。
僕と髙橋とはキャラも全然違っていて、髙橋は冷静でロジカル、僕が熱意派。まさにボケとツッコミという感じ。お互いに見る視点が異なっているので、考えが偏ることがない良いコンビだと思っている。

すごい出会いですね。
ちなみに、メドレーでやってたセールスの仕事ってどんな仕事ですか?

全国のクリニックや病院に遠隔診療のシステムを販売する営業をしてたんだ。当時は遠隔診療が日本で解禁になったばかりで、新しい市場を切り開いていくという楽しさがあった。

メドレーには営業がやりたくて入ったんですか?

そうだね。自分で「営業やりたい」って言ったよ。そもそも世の中にどんな職種があるのかもよく知らなかったんだ。
ただ、大学生のときApple Storeやディズニーシーで接客をしていた経験があったから、やるなら営業がいいかなって思ったんだよね。


今いる環境で、ひたすら学びとる


どうやって、起業のノウハウを学んだんですか?

メドレーでの仕事は遠隔診療という新しいサービスの立ち上げだったので、上司から丁寧に教えてもらうというよりかは、自分で学びにいく感じだった。事業を勉強するために、営業の業務だけでなく、社内全体の動きに目を向けるようにしていた。

手に入れられる学びはひたすら吸収していった。
例えば、社長がどういう判断軸で意思決定しているのか、営業の数字管理はどうやっているのか、スプレッドシートの関数は何を使っているのか、など。ひたすら吸収して、メモを取ってた。
与えられた業務に満足するだけじゃなくて、自分のいる環境の中でひたすら学びとる。そのためには、どうやったら自分の業務を効率化できるかを常に考えながら、業務以外のことを学びとる気持ちの余裕を持っておくことが大切だよね。

あとはPDCAサイクルが重要。計画して、実行して、評価して、改善する。その繰り返し。具体的には、僕はやった商談を毎回振り返っていた。今回はなんで売れなかったのか?顧客の本心はなんだったのか?細かくPDCAサイクルをまわして良い型を身につけていった。だから、メドレーで働く中で得られたものはとても多かったと、自信を持って言えるよ。

会社に入って自分で起業のノウハウを学びとったということですね?

そうだね。
あと、経済産業省主催の「始動Next Innovator 2017」というイノベーター育成プログラムを受けてたんだよね。シリコンバレーと日本の架け橋プロジェクトで、全国242名の起業家から選抜20人に選ばれ、シリコンバレーに行ったんだ。

おー、すごいです!!

そのプログラムの中には、いわゆる有名起業家と呼ばれる人たちのレクチャーを受ける機会があったんだ。顧客の課題である“ペイン”に着目してビジネスモデルを作ることが重要という話はこのレクチャーで学んだんだ。
シリコンバレーに行ったときはEvernoteの創業者の話を聞いたり、Airbnbに見学に行ったり、ベンチャーの聖地を体感できたのは良かったね。


幸せを感じるのは、お金じゃない


起業したら医師になるより儲かるんですか?

事業が軌道にのれば、自分に適切な給料を払えると思うし、上場したり会社を売却したりすれば大きなお金が入る。

最初のころは会社が大きくなるにつれて、会社が今いくらの価値なのかって気にすることもあったけど、お金に対する考え方がだんだん変わってくるんだよね。最初はお金が目的だったとしても、やっているうちにお金に興味がなくなるんじゃないかな。

お金に興味がなくなったのはなぜですか?

新卒で入社してくれた社員を採用したことがきっかけかな。
「自分だけが儲かるために、この人たちの人生を預かっていいのか?」とか、やっていてさらなる事業の可能性に気づいてくると、利益を自分のお金にするよりも社会貢献のために使って、「もっと多くの人を幸せにしたい」と思うようになってくる。
そうやってお金にとらわれなくなってくるんだよね。お金を儲けるよりも、社会貢献、そして仲間と会社を作り上げていくことに幸せを感じるようになってくるんだ。


起業を考えている人へ


起業すると、リスクもありますよね?

起業しようとしたとき、みんなが不安に思うのは、全体像がしっかり見えてないからということも多いと思う。そういうときに不安に思っているのを1つ1つ洗い出して考えみると、不安だと思っていたことは実はたいした問題じゃないということもあるんだ。

“会社が潰れる=キャッシュアウト”。じゃあキャッシュはどこから入ってくるかというと、売り上げと調達。今は資金調達環境がよくなっているから、お金は集まりやすいと言われている。つまり、倒産もしにくい。
だから、起業したいって思ったときリスクがあるからってやめるのは良くないんじゃないかな。

逆に、僕は自分が情熱を燃やせない環境にいることで心が枯れていく方がリスクだと思う。それが、自分が起業を選んだ大きな理由かな。
これからもこの想いを胸に頑張り続けていきます!

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